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毎日新聞の取材を受けました(2019年11月22日掲載)
シリーズ 地域医療を考える-2019年版
早期発見 ● 早期治療が重要
糖尿病性腎症
川村内科クリニック 川村光伸院長に聞く
国内で約33万人が人口透析を受けており、その原因疾患の第1位が、糖尿病を原因とする「糖尿病性腎症」という。早期発見●早期治療が重要とされる病気の原因や治療法などについて、川村内科クリニック(宿毛市平田戸内)の川村光伸院長(60)に聞いた。〔大道寺峰子〕
改めて腎臓の役割を教えてください
◆腎臓は握りこぶし大で、腰の少し上の左右に1つずつあります。腎臓は尿を作るところとして知られますが、血液中から体に必要なものと、不必要なものを選別し、体液を調整するのが大きな役割です。
まず水分量の調節。猛暑で脱水気味になると尿の量が減り、黄色の濃縮尿が出て危険サインとなることからもイメージしやすいでしょう。
また脱水を防ぐために塩分の摂取がいわれますが、腎臓には体内のミネラル(ナトリウムやカリウムなど)のバランスを保つ役割もあります。
肺と協働しながら血液中の酸とアルカリの濃度や、血圧を調整するのも大事な役割です。
さらに、腎臓は骨を維持するのに重要な役割を果たしています。ビタミンDなどの調節因子を通じて、体の中のカルシウムの量を調節しています。
動物が水中から陸上へと進化できたのも、腎臓の発達、働きがあったからといっても過言ではありません。
腎臓と血管の関係を教えてください
◆腎臓は血管の塊ともいえる組織です。
「糸球体」という毛細血管の塊によるろか機能で、血液中の老廃物は尿として排出されません。
一方、糖尿病で高血糖状態が続くと血管や糸球体などのさまざまな組織に障害が起きます。
それが糖尿病性腎症(糖尿病性腎臓病)です。
糖尿病の人は高血圧を併発することも多く、さらにリスクが高まります。
高血圧や高血糖が続くと動脈硬化が進展し、いろいろな合併症が起きます。
例えば、庭の水やりなどに使うホースをイメージしてみてください。新しい時は弾力がありますが、古くなるとボロボロになり水管も出血しやすくなり脳出血を起こしたり、反対に詰まったり(脳梗塞、心筋梗塞)してしまいます。
糖尿病性腎症はどのように診断するのですか
◆糖尿病性腎症に限らず、腎臓の病気全般にいえることですが、まずたんぱく尿が大きなポイントになります。
先ほど説明したように、本来は尿から血液やたんぱく質は出ないはずですが、腎臓に何らかの障害があると混じってきます。
腎臓の病気がやっかいなのは自覚症状がほとんどなく、気づいた時には重症化していることが多い点。
特にいったん悪くなってしまうと元に戻る可能性が少なく、最終的に人工透析や移植が必要となってくるので注意が必要です。
このため診断ガイドでは、たんぱく質の中でも最初に出てくる微量のアルブミンをチェックし、早期発見●早期治療の啓発につなげています。
さらに腎臓の働きを表す「糸球体ろ過量」(GFR)などを組み合わせ、重症度を大きく5段階に分け診断していくことになります。
治療法は
◆糖尿病性腎症の場合は、原疾患である糖尿病の治療をしっかりすることが重要です。特に腎臓病の一番の治療はたんぱく質制限ともいわれます。食事療法が基本になります。
また最近は血圧が腎臓の病気に強く影響するとの研究結果も出ています。高血圧の予防という観点からも減塩は大切です。日本人は食塩を取ると高血圧になる「塩分感受性」が高いので、1日6グラム以下の食塩という制限をしっかり守ってほしいと思います。
もちろん、血糖値や血圧を下げる薬を使い、治療していきます。
運動については、以前は腎臓の病気の場合、安静を勧められていましたが、今はQOL(生活の質)の維持という点からも適度な運動が勧められています。食事や運動など生活習慣は患者本人だけでなく、家族全員で考え、一諸に生活習慣を見直すといいでしょう。
透析療法についても教えてください
◆腎臓の働きが正常時の15%未満になった状態を末期腎不全といいます。
先ほどの5段階でいえば最も重症化した段階に当たります。
そのぐらいになると、前身のむくみや、だるさ、食欲不振、吐き気など「尿毒症」と呼ばれる症状が出てくることが多く、透析療法を検討することになります。
透析療法には、人工腎臓を使用した「血液透析」と、自分の腹膜を使って腎臓の代わりにする「腹膜透析」、腎移植があります。
透析は一生続ける必要があります。だからこそ、透析に至る前段階での早期発見●早期治療が欠かせません。
改めて腎臓の重要性を痛感しました
◆重症化した場合、移植が選択されることもありますが、腎臓は二つのうち一つになっても生きていける一方、悪くなる時は二つとも悪くなります。
現代医療において治療法は日々進化しています。
しかし、進化という点でいえば私たちの体は食料が少なかった時代の仕様をとどめています。
例えば、血糖値を上げるホルモンはたくさんありますが、下げるホルモンはインスリンだけ。
栄養不足の時代は血糖値を下げる必要が少なかったからです。
血圧を下げる要素も一酸化窒素に限られます。飽食の時代、さらに高齢化社会において、腎臓の負担は増しているように思います。
生活習慣に基づく病気を疫学的に解明していくのは、なかなか難しい面がありますが、早期発見●早期治療を基本に、トータルにとらえながら治療に臨んでほしいと思います。