毎日新聞の取材を受けました(2017年10月19日掲載)

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シリーズ  地域医療を考える(2017年版)

高血圧や糖尿病に起因


慢性腎臓病(CKD)

日本に約1300万人以上いるとされる慢性腎臓病(CKD)。

重症化すると、人工透析や腎移植が必要になり、全国の透析患者は約32万人に達している。CKDは高血圧や糖尿病など生活習慣病に起因するとされ、誰もがかかる可能性がある。

そこで、「川村内科クリニック」(宿毛市平田戸内)の川村光伸院長(58)=写真=に病気の原因や予防法などを聞いた。

聞き手、毎日新聞高知支局長 村瀬達男

腎臓の役割は

腎臓は腰より少し上の背中側に左右一つずつあり、握りこぶし大です。

腎臓の働きとしては、水分調節、ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなど)の調節。あとは、車に例えると、ガソリンを燃やした後の排気ガスのような老廃物を出す役割があります。貧血、血圧などにも関与しています。

腎臓の大小二つのイラストを見てください。

左側の大きい図で示すと、腎臓の構造は、尿を作り出す「腎実質」と、そこで作られた尿を集めて流す「腎盂」があり、尿は腎盂から細い尿管を伝わって、ぼうこうに流れていきます。

動脈から入った血液は、毛細血管の塊である糸球体で漉して浄化し、静脈から、きれいにして還します。その過程で、要らない物を排せつしたり、体にある水分を調節します。小さい図は糸球体の拡大図、人の体に200万個あります。

最終的には透析も

CKDとは、どんな病気ですか


CKDは原因が何であれ、腎臓が徐々に悪くなる病気の総称で、最終的には腎機能が廃絶し、透析に至ります。CKDは大きく分けて、腎臓だけが標的にな場合と、全身の病気の中で腎臓が目立ってやられる場合があります。

前者で多いのは、糸球体がやられる「慢性糸球体腎炎」です。糸球体の周りにある「間質」がやられる「間質性腎炎」もあります。

一方、後者は「糖尿病性腎症」など糖尿病や高血圧など生活習慣病という全身性の病気で腎臓にダメージが来る場合です。腎臓のほかにも心臓や脳、足の血管など、いろんな所が標的になります。

CKDの定義は、日本腎臓学会の「ガイドライン2012」によると、

①尿たんぱくが検出されたり、血液検査や画像診断などで腎臓の障害が明らか

②腎臓の働きを表す「糸球体ろ過量」(GFR)が60ミリリットル/分1.73平方メートル未満。

①②のいずれか、または両方が3が月以上持続する状態を指します。

尿たんぱくとは


人間の体の構成成分はアミノ酸。そのアミノ酸を作るため、たんぱくの一種であるアルブミンが血液の中を流れ運ばれます。

 

たんぱくは体に必要なので、正常な腎臓ならこぼれ落ちません。何らかの障害が腎臓にあると、血液、アルブミンなどのたんぱく質が、おしっこの中に混じってしまう。それを早めに見つけ、病気の初発の頃から治療し、透析の最終段階まで進行しないようにするため、CKDという概念が作り出されました。早期発見、早期治療の啓発のためです。

 

一番最初に見つかるのが学校検診。慢性糸球体腎炎をスクリーニング(選別)するためで、初発症状は、たんぱく尿、尿潜血(尿の中に血液が混じる)などです。これに対し、成人の健康診断は高血圧や糖尿病を見つけるのが主な目的です。

年一検診で早期発見

各ステージ(病気)について教えてください。


たんぱく尿から、一番悪い腎不全までの間で分かれています。腎機能を測る血液検査などの指標は、いろいろありますが、GFR(糸球体ろ過率)で見る場合もあります。

CKDの原因疾患とGFRの値、たんぱく尿の程度によって重症度を分けるのをCGA分類と言います。

 

GFRの値でG1期からG5期(G3期はG3a期とG3b期に細分)の六つに分け、たんぱく尿の量でA1からA3の三つに分けます。

これを表にした縦横18マスについて、リスクが最低の緑から黄、オレンジ、最高の赤へと四つに色分けします。

G1期腎臓機能がほぼ正常

G2期は、ごく程度に低下

G3a期は軽度から中等度の低下

G3b期は中等度から高度の低下

G4期は高度の低下

G5期は末期腎不全。

自覚症状は、G5期なら、ほぼ透析になります。透析には、機械による「血液透析」、自分の腹膜を使って腎臓の代わりにする「腹膜透析」があり、最近では腎移植も日本でも行われるようになりました。

 

ステージを分けると、治療の目安が付けやすい利点があります。「このステージなら、これぐらいでいいか」と患者さんに説明したり、逆に患者さんから「そこまでしなくても」と言われても「やらんといかん」と強く言う場合もあります。

治療法の違いは


原因が何であれ、腎臓だけがダメになるか、全身がダメになるかで治療法も変わってきます。

免疫物質が糸球体にたまる病気なら、それをブロックする治療法がメインになります。一方、高血圧や糖尿病による腎臓病は、直接腎臓をターゲットにする治療ではなく、高血圧なり、糖尿病の治療がメインです。

ただ、糖尿病の場合、高血圧よりもシビアな治療が要求されます。例えば、高血圧の血圧のコントロールが130で良いとしても、高血圧に糖尿病を合併した場合は120ぐらいの血圧コントロールが必要になってくる場合もあります。

早期発見のために大切なことは


検診です。CKDで何らかの症状が出た時には、かなり悪いことが多いです。特殊な膠原病の腎炎などは別で、発熱で来る場合もあります。一般的には年に1回、検診すれば、大丈夫です。

予防は塩分制限から

治療中に注意することは


まず、患者さんに病気を理解してもらうことです。例えば、高血圧によるCKDであれば、血圧をどのように管理するかが大事で、最近は「家庭血圧」が重視されています。

要するに、血圧起きると上がって、寝ると下がる。日内変動があり、日中の血圧が正常値として一般的に取られています。しかし、高血圧は、いろんなタイプがあり、医者を見ると、血圧が上がる「白衣高血圧」や、逆に家庭で高い「仮面高血圧」も。臨床では医者は見つけることができないため、家で血圧を測ってもらわないと、いけないのです。

 

もちろん、体重を増やさない(肥満の予防)ことや、禁煙と塩分制限は基本で、大切です。中でも、日本人は、食塩を取ると、高血圧になる「塩分感受性」が高いので、塩分制限が重要です。

CKDにならないためには


慢性糸球体腎炎は注意しても発症してしまう場合が多く、生活習慣病に合併するCKDは、生活習慣に注意することが大事です。中でも、透析になる原疾患で一番多いのは糖尿病です。

昔は慢性糸球体腎炎でしたが、今は糖尿病が5割を超え、6割ぐらいになっています。

 

CKDにならないよう、たばこ、塩分を制限して生活習慣を改善します。もし、なっても、たんぱく尿の段階では投薬せず、様子を見るのがメインです。

 

進行して腎機能が落ち、血圧が上がったり、血糖値が上がったりしたら、積極的に薬を使う「早期介入」をした方がいいと思います。