田辺製薬の広報誌に掲載されました(2013年5月号)

血圧管理と丁寧な患者指導で糖尿病の重症化を防止

糖尿病患者さんの治療継続のためには、医療者による療養指導が大きな役割を果たします。

血圧や血糖値の管理、さらに患者さん一人ひとりと向き合う丁寧な指導を通して健康管理や重症化予防に取り組む川村内科クリニック院長の川村光伸先生に、糖尿病治療と患者指導のポイントについて伺いました。

 

糖尿病治療における早期介入の重要性

吹き抜けの天井からの明るい光が差し込む、高知県宿毛市の川村内科クリニック。

 

エントランスや広々とした院内はバリヤフリーに配慮され、車椅子の患者さんが楽に行き来できます。

そして、開放感のある待合ロビーでは患者さんがくつろいだ様子で診察を待っています。

 

同クリニックは内科、循環器科、リハビリテーション科を標榜し、1997年に開業しました。川村先生の専門は腎臓内科ですが、「開業当時はかかりつけ医として風邪からマイナーサージェリーまで幅広く診ていました。

その後、当院にかかる患者さんは血圧や血糖値のコントロールが良好だと口コミが広がり、徐々に糖尿を丁寧に診てくれるクリニックとして認知されてきました」と話します。

 

現在では、糖尿病の他、高血圧や高脂血症を伴う腎臓系疾患を中心に、外来維持透析用ベットも有するクリニックとして専門的医療を地域に提供しています。

 

同クリニックでは看護師4名、看護助手6名、臨床好学技師4名、事務職員3名のスタッフが、先生とともに療養指導やサポートに当たっています。1日の平均患者数は40~50ほど。

 

患者さんと丁寧にコミニケーションを取りながら定期的に診察することを心掛けており、特別な事情がない限り長期処方は行わない、と言います。その理由として先生は、血圧や血糖値を基に早期治療を行うことと、患者教育の重要性を指摘します。

 

「食事や運動療法の意欲を維持し続けるのは簡単なことではありません。特に糖尿病は発症早期に適切な治療を行うことが予後に影響しますので、できるだけ短い間隔で定期的に診察し、状況に合わせて指導や処方をきめ細かく変更することが重症化予防のポイントです」

血圧管理を通して患者さんの意識を向上

「血圧は高過ぎても低すぎてもいけません。特に糖尿病患者さんは、高血圧だと糖尿病性腎症が急速に進み、短期間で透析導入が必要になる場合もあります」と、川村先生は適切な血圧管理の大切さを指摘します。

血圧の変動パターンは、昼間は正常値でも朝目覚める頃に急速に血圧が上昇する早期高血圧や、逆に本来血圧が下がるはずの就寝中でも高いままである夜間高血圧など、人によって千差万別です。

高血圧や血圧の急激な上下は、糖尿病の重症化だけでなく脳や心血管疾患のリスクも高めます。

そこで先生は家庭血圧を測り、24時間における変化のパターンを把握するよう、患者さんに指導しています。

「患者さん一人ひとりの血圧を正確に把握することで、早期高血圧の人には効果が短い薬剤を夜眠る前に服用してもらうなど、適切な処方による安全で良好な血圧管理が可能になります」

さらに、患者さんの治療意欲や健康管理への意識を高めることも医療者の役割であるとして、診療を通して血圧や糖尿病に関する知識を伝えています。

「今では「寒くなると血圧が上がるから」と、冬が近づくと自ら薬剤変更のための来院するなど、しっかり自己管理ができている患者さんが多くいます」と、先生は頼もしそうに話します。

 

指導によって疾患についての知識を身に付け予後が良好になることで、患者さん同士の情報交換も行われるようになり、さらに健康管理意識の高い人が増えるという好循環が生まれているそうです。

患者さんの性格に合わせて指導方法を変更

糖尿病治療においては、血圧に加えて血糖値のコントロールが欠かせません。川村先生は食事血糖値を重視し、食後の高血糖を抑えてGAを改善するように療養指導や処方を行っています。

 

また、患者さんの治療からのドロップアウト防止も重要な課題です。先生は「患者さんの治療への動機付けを促すためには、検査結果を示して血糖値等が改善していく様子を自分の目で確認してもらうのが何より効果的です」と語ります。

「食事や運動療法は性格や生活環境などによって向き不向きがあり、無理を強いると精神的負担になってしまいます。そのため、食事療法等は患者さん一人ひとりに合わせて実施しており、場合によっては病態の進展予防のため早めに薬物療法を導入することもあります」

 

薬物療法の早期介入は、単純に血糖値を下げることだけが目的ではなく、治療意欲の向上にも効果があると言います。「薬剤を用いれば当然、次回の来院時には血糖値が下がっているので、「頑張っていますね」としっかり褒めます。すると、もともとあまり治療意欲が高くない患者さんでも”成果が出るならやってみようかな”と関心が湧いてきて、真剣に治療に取り組み始めることも多くあります」

 

指導の際は、患者さんの意欲や性格に合わせて慎重にアプローチの仕方を変えています。例えば、治療意欲の低い患者さんには、その方と健康な人の食後血糖値を比較して示し、危機感を感じてもらうなどの方法が効果的だそうです。

一方、繊細な性格やうつ傾向がある患者さんには、細かいデータを示すよりも、励ましたり取り組みを褒めたりといったメンタルケアによって意欲を促す方が良いと話します。

「薬物療法や情報開示、ちょっとしたコミニケーション等、どのような診療行為も患者さんが治療に取り組む励みにつながるよう心掛けています」

地域における糖尿病治療への取り組み

川村先生は、これからの糖尿病治療への取り組みとして、早期発見のために健診のさらなる普及が必要だと指摘します。「現在も行政の特定健康診査実施期間として健診を行っていますが、潜在患者を拾い上げるためにはより多くの医療者が協力する必要があります」と語ります。

 

そして、診診連帯についても積極的に対応していくと同時に、「これからも、地域の糖尿病治療の充実に取り組んでいきたいと思っています」と語ってくれました。